ゴルフは続くよどこまでも #26「ゴルフと読書の秋」
日本は読書の秋が到来しています、か?
南半球は春うららになってきたが、「美味しい柿の見分け方」とか「栗の皮剥き裏ワザ」とか、ニュース記事の見出しを目にすると、あぁ日本は秋なんだなぁ、と故郷の季節に思いを馳せる。
ゴルフの秋、読書の秋ということで、(秋に限らず年中やってるじゃないかという突っ込みは置いといて)今回はゴルフの本を紹介したいと思う。
最近どハマりしたのが、夏坂健 (なつさかけん) さんの本だ。
先日の日本帰国時に参加したコンペの景品で偶然いただいた文庫本が、「ゴルフがある幸せ。」(日経ビジネス人文庫、2015年)である。
カバー帯の著者紹介を引用すると、
「作家。1935年横浜生まれ。
35年間シングルを維持し、北極圏から南米地理まで世界中のグリーンを席巻。
それまで『自分でやるゴルフ』と『テレビで見るゴルフ』の2種類しかなかった日本に、『読むゴルフ』の分野を切り拓いた。(以下略)」
いや〜、きっとすごい人なんだろうけど「新しいジャンルを開拓する」までは言い過ぎでは? と正直心配した。
個人的に、ゴルフを題材にした読み物で人に勧めたくなるほど面白いと思ったことはなかったからだ。
しかし、本文を読むうちに私は平謝りしたくなった。
夏坂先生はゴルフ作家界のベン・ホーガンと言ってもいい。
すなわち神様と言ってもいい。
夏坂先生の軽妙な筆で描き出されるのは、古今東西のゴルフにまつわる偉人・変人の逸話の数々。
ひとつのエピソードが 6、7ページ程度の短編集で、SFの巨匠 星新一氏のショート・ショートの読後感に似ている。
しかし、これが著書による緻密な取材によって裏打ちされた、本当に実在したゴルファーたちの熱狂のドラマと思うと、時代を超えて心が震える。
登場人物たちは、初めて全米アマチュアに出場したイスラム教徒、“ゴルフルールの始祖”となった陸軍退役大佐、夫君が殺されてもマッチプレーに明け暮れた女王など、誰もが知るプロゴルファーよりも、無名のアマチュアやゴルフ黎明期のプレーヤーやキャディたち。
彼ら彼女らの喜怒哀楽は、笑いあり涙あり、共感の嵐である。
また、機知に富んだ文章から垣間見える、夏坂氏のゴルフ史への異常なまでの執念が愉快かつ恐ろしい。
私は他の夏坂作品も読みたくなり、大型書店に行ってゴルフ書架コーナーを物色した。
「夏坂健 Best of Best 誇り高きダブルボギー」(ゴルフダイジェスト社、2018年)を購入したが、もう傑作である。
ただ、ゴルフ歴の長い、また雑誌購読歴の長い人なら知っているレジェンドなのかもしれないが、残念ながら著者は2000年に65歳で惜しまれつつ亡くなっている。
当時中学生の私は知る由もなかったが、一冊目の「ゴルフがある幸せ。」の終わりにある雑誌編集者・石川次郎氏の解説によると、夏坂先生は座談もたいへんに巧かったそうである。
「話に起承転結があり、オチを見事に決める。人懐こい笑顔で、ゴルフ小噺を語らせたら天下一品であった。」
是非ともお話を聞いてみたかった。
ゴルフダイジェスト社からは、2007年に「夏坂健コレクション」全6巻が刊行されている。
先述の「誇り高きダブルボギー」はそこから36編を再掲載したまさに「Best of Best」で、2018年に刊行されている。
夏坂先生はゴルダイのコレクションの他に20冊以上の著作があるので、入門者にもファンにも、紹介した二冊どちらもおすすめしたい。
ただB型の私は、一度ハマると一から十まで知りたくなる性分。
今度日本に帰国した際には先生の本を大人買いしようと思っている。
ヒッティ
1987年生まれ。ニュージーランド在住。幼少期からゴルフを始め、一時はプロを目指すも、今なおアマチュアとしてゴルフを愛し続けている。最近のハンデは1.8。世界中のゴルフニュース速報を見るのが日課。