ゴルフは続くよどこまでも #32「料理の達人、ゴルフの達人」

『こんばんは! 明日はアマトリチャーナとサラダとチキンでしたよね。 

たまねぎ、トマト缶、スパゲッティ、ベーコン(グアンチャーレの代わり)、パルミジャーノ(ペコリーノの代わり) 用意していきますね』

 

『こんばんは。 グアンチャーレとペコリーノは初耳でなんのことだかわかりませんが(笑)、代わりで問題ありません!』

 

『パルミジャーノとペコリーノは、ウェッジの58°と60°くらいの違いです』

 

・・・

 

先日、オークランドで有名な高級レストランのシェフをうちに招いて、料理講座を開いてもらった。

 

こう書くとセレブゥな主婦の気取った遊びのように聞こえるかもしれない(?)が、実はその日本人シェフは私のゴルフ仲間だ。

私はアマチュアなのでレッスン料はもらわないが、代わりに彼から料理を教えてもらうというわけだ。

 

ゴルフのときは私が師匠。 料理のときは彼が師匠。

トップアマチュアと一流シェフ。

対価がフェアかどうかはさておき、どちらも嬉しい「物々交換」ならぬ「経験値交換」でウィン-ウィンの関係である。

 

 

さて、冒頭にもどって料理講座である。

 

「時間をかけて本格的に作りたいですか、それとも時短で簡単に作りたいですか」

 

師匠が問う。 なるほど、目的の明確化がさっそくゴルフレッスンに通じるものがある。

 

「横着者なので簡単なバージョンでお願いします…」というと、OKです! と頼もしい返事。

 

「冷ます時間が必要なので、鶏肉からはじめましょう。

鶏胸肉をひろげて血のかたまりやスジを切って、ささみがついていればそれも分けます。」

 

師匠がひとつお手本で見せてくれた後、もうひとつの鶏肉の処理をやってみる。

が、師匠がいとも簡単にスッと取りのぞいていたスジが、なかなか切れずにつっかかる。 同じ包丁を使ったのに。

 

ゴルフでもすぐにプロみたいにできないのと同じだ。 テレビ画面越しには、タイガー・ウッズはじつに簡単そうにショットを放ってみせる。 同じクラブなはずなのに。

 

「鶏肉をきれいにしたら、砂糖を振りかけます。

これは味をつけるためではなく、鶏肉の水分を出してコーティングするため。

鶏肉をラップにくるんだり袋に入れたりする方法もあるんだけど、今日は時短でそのままお湯に浸すので、砂糖をまぶして10分ほど置いておきます。」

 

師匠は丁寧に理由まで教えてくれる。 私が感心しきりでいると、こうつづけてくれた。

 

「料理では、行動や手順にはかならず理由があります。 失敗するのも成功するのも理由があります。

僕はゴルフも、なんでそうなるのか理屈がわからないとできないんです。」

 

私はハッとした。 師匠が私のゴルフの弟子になるとき、すごい量の質問を浴びせかけていたのはそれが理由だったのだ。

 

鶏肉をひらくのは熱が均等につたわりやすくするため。

バンカーのときにクラブフェースをひらくのは、砂にもぐりにくくするため。

 

できあがったチキンを薄くスライスするのは、食感と舌触りをよくするため。

ドライバーがスライスするのは、クラブの軌道がアウトサイドインになっているため。

 

だが 成功も失敗も、原因がすぐにわからないこともある。 

料理では、温度・時間・調味料・調理器具など。

ゴルフでは、構え・方向・スイング・メンタルなどなど…

 

それらは、トライ&エラーの繰り返し、経験を積んでだんだんわかってくる。

 

シェフが「塩ひとつまみ」というのがよくわからず困るように、ゴルファーが「8割くらいのスイング」というのも感覚に依るところが多く、慣れない人は困るだろう。

だが、疑問を持ち、その理由をさがし、試行錯誤をつづけるかぎり、だんだんわかってくるのだ。

 

チキンはこの上ないほどやわらかく、短時間でもよく味がしみこんでいた。

アマトリチャーナは、ベーコンのうまみ、炒めたたまねぎの甘み、トマトの酸味、仕上げは雪のようにふりかけられたパルミジャーノチーズが絶妙にからみあい、ふだんの台所で作ったとは思えないほどに、最高に美味しかった。

 

私たちはふた家族で楽しく食卓を囲み、ゴルフのこと、料理のこと、何かを突きつめるということとその共通点について、おおいに語り合った。

 

師匠がゴルフの達人になるか、私が料理の達人になるか、どっちが早いか楽しみ

…と言いたいところだが、

グアンチャーレもペコリーノも知らなかった私とくらべたら、師匠のゴルフの上達のほうが早そうである。

 

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