ゴルフは続くよどこまでも#5「美容院」
美容院で雑誌を読む
小さい頃から通っていた美容師さんが遠くのお店に移ってしまったのを機に、しばらく美容院巡りをしていた時期がある。
私はファッションに疎い。というか小中学時代は特に自分の容姿にコンプレックスがあったから、全然オシャレを楽しむ気になれなかった。
それでも髪は伸びる。年頃にもなる。同級生はメイクや縮毛矯正をしたりし出す。
美容師さんは、「今日はどんな感じにしたいですか?」と尋ねてくるが、私は特にヘアスタイルの意見も希望も持ち合わせておらず、困ってしまう。
「じゃあ、普段どんな雑誌を読まれますか?」と聞かれ、更に答えに窮する。
「ゴルフ・ダイジェストとパー・ゴルフです」なんて言う勇気はない。
本当は宮里藍ちゃんみたいに、キャップから低めのポニーテールを出すのがシンプルにかっこいい。
なんて心の声を美容師さんが聞こえるはずもなく、差し出されたヘアカタログから、なんとなく飯島茜さん似のモデルを選び、鏡の前にノンノだのJJだのキャンキャンだのが置かれる。
私はため息をつきながらもその状況を受け入れていた。
20代になり、遅ればせながらプロゴルファーを志しロサンゼルスへ渡った。
そこでルームメイトになった女性が、たまたまヘアスタイリストだった。
私はようやく心の安息を得た。
美容院でゴルフの話ができる。
そしてリクエストは「キャップを被った時に邪魔にならない髪型」と堂々と注文できる。
30代になり、今度はニュージーランドに移った。
日系の美容室にいったら、電子パッドを渡された。
日本の契約雑誌が読み放題で、なんでも読んでいいですよと言う。ゴルフ雑誌もその中に入っていた。
私には憧れの「美容院でゴルフ雑誌」を体験することになったわけだが、どうもしっくりこない。
そこでようやくわかった。
私が求めていたのはゴルフ雑誌ではなくて、自分が緊張せずに、ゴルフの話を聞いてくれる美容師さんだった。
ご飯は「何を」食べるかよりも、「誰と」食べるかが大事だよ、と昔 誰かが言っていた。
ゴルフもそういう部分がある。どこをプレーするかよりも、誰とプレーするか。
もちろんゴルフには色々な楽しみ方があるが、気の置けない友人と心を開放してプレーできる喜びを、私は美容院巡りで再確認したのであった。
[プロフィール]
ヒッティ
1987年生まれ。ニュージーランド在住。幼少期からゴルフを始め、一時はプロを目指すも、今なおアマチュアとしてゴルフを愛し続けている。現在のハンデはゼロ以下。日本とニュージーランドで女子ミッドアマ チャンピオンのタイトルを獲るなど、珍道中を邁進中。