ゴルフは続くよどこまでも #2「ティファニーのグリーンフォーク」
ティファニーのグリーンフォーク
高校の部活(当然ゴルフ部)を引退する時、後輩たちからティファニーのグリーンフォークをもらった。
野菜を食べるためのフォークではない。ゴルフの際にグリーンに着弾した跡(ボールマーク、またはディボット)を直すための道具である。
なんて洒落た男の子たちであろうか。
私は男女混合のゴルフチームにおいて、ただ一人の女子生徒であった。ただでさえ孤軍奮闘感があったのに、同学年のチームメイトもおらず、最上級生になったら自動的にキャプテンになってしまった。
四苦八苦しながらもなんとか無事にシーズンを終え、頼りないキャプテンにもついてきてくれた後輩たち。
純白のリボンがかけられたエメラルドグリーンの小箱。そんなアイテムをもらって嬉しくない女性などいない。
しかし、少し問題があった。
私の弾道は低くて転がる、効果音を付けるならば「ぺチーン、コロコロ」なショットであった。
PGAツアーの選手のように、高い弾道で「バシッ、ドン、キュルルル(バックスピン音)」とはいかない。
つまり、なかなかグリーンにボールマーク(=ディボット)がつかないのである。
もしや、あれは「もっと高い球が打てるくらい練習しろよ」という後輩たちの皮肉のメッセージだったのか?
私は嬉しさの照れ隠しとひねくれた猜疑心を抱きながら、大学では体育会ゴルフ部に入ろうと決めた。
体育会に入部して、私は毎日夢中で練習した。
高くて強い球。
グリーンに穴をあけ、猛烈なバックスピンをしてピンに絡んでいく球。
ギャラリーがわっと沸く中、軽く手を上げて声援に応えながらグリーンに歩んでいく。
そして自分が作ったディボットを、優雅にティファニーのグリーンフォークで直すのだ。
高校の後輩たちは、私の妄想的野心に火をつけたことなど知る由もないだろう。
それから数年。
バックスピンはなかなかかからないが、それなりに上級者となって、グリーン上にはボールマークがつくようになった。
ただ、自分がディボットを作れるようになったのと同じ頃に、グリーン上の他の人が作ったマークが気になり始めた。
プレーに余裕が生まれてきてからは、毎ホール2、3個のディボットを直すようになった。
さて、今はティファニーのグリーンフォークで優雅にディボットを直しているか、というと、決してそうではない。
実は使うのが勿体なくて、かれこれ十数年間、実家の玄関に飾ってある。
しかしそれは、私が上達を心に決めたきっかけであり、お守りであり、大事な思い出である。
私はティファニーの似合うゴルフ淑女になれただろうか、と目にするたびに自問するのだ。
[プロフィール]
ヒッティ
1987年生まれ。ニュージーランド在住。幼少期からゴルフを始め、一時はプロを目指すも、今なおアマチュアとしてゴルフを愛し続けている。現在のハンデはゼロ以下。日本とニュージーランドで女子ミッドアマ チャンピオンのタイトルを獲るなど、珍道中を邁進中。